わたしたちのめざすもの
この事業の趣旨を理解していただくために。

多言語センターFACIL 代表 吉富志津代

入管法の改正

1990年、日本経済がバブルの時期、労働力不足を補うためか入管法が一部改正され、 南米諸国の不況と相まって大量の日系南米人の流入が始まったとき、私は南米の領事館 の職員をしていました。それ以後、従来の領事館業務に加えて、スペイン語圏の南米人が日 常生活を送る上でのさまざまなトラブルの対応に追われました。けがや病気による医療に関連した現場で意志が伝わらない、借りる家を探しているがなかなか見つからない、勤務先で仕事の内容や契約内容の食い違い、入管手続きや役所での手続きがわからない、 etc・・・。これらはいずれも「ことば」が理解できないためにおこるトラブルであり、 受け入れた日本側の公的な機関ですらまだスペイン語の生活相談窓口さえない状況で、 緊急性の高い順に通訳や翻訳をこなしていきながら、対症療法としてスペイン語の生活 ガイドブックを作成したりもしました。そしてこれらはすべて仕事時間外に無償提供せざる をえなかったのです。

ただし、在留資格等の手続きに必要な書類の翻訳のみ、無償で引き受けたところ、山のよう な依頼がきた経緯により、市価の6分の1の価格で引き受けるように切り替えていったのですが・・・。

阪神・淡路大震災

そういった状況の中で、阪神・淡路大震災がおこり、当然のごとく日本語のわからない 南米人が情報を求めて連絡をしてきたことにより、ほとんどがカトリックであるかれらの集まるカトリック教会との連携で地震に関するさまざまな情報を翻訳したり或いは翻訳した情報を共有したり、さらにそれをラジオというツールを使ってより多くの人に提供する ということを実行しました。

こうしてとりあえず困っている人に何とか情報を伝えるために、または問題を解決する ために日本語とそれ以外のことばのできる人たちは自分の技能を惜しみなく提供するとい う形ができあがりました。

平常時に戻って・・・

ところが、「とりあえず」や「非常時」ではない日常の生活の中で、こういった形がはたして正常なのかどうか、社会貢献や奉仕の精神という名の下にきちんとした対応ではない対症療法がつづけられることは、何の問題解決にもつながっていないのではないか。行 政機関や医療機関の現場、またことばのわからない住民自身の問題解決にむけてのそれぞれの自覚や自立がいつまでたっても見えないし、技能提供者側にも無償奉仕という甘えか ら逆にトラブルを招くような事例さえ起こってきました。

日本にこんなに多くの外国人が住むようになり(現在約180万人・人口の約1.5%)間違いなく「多民族社会」が到来しているのにもかかわらず、そもそも専門職の領域であった 翻訳・通訳事業がどうしてあたりまえのこととしてもっと普及しないのだろうか、なぜ、 無償の協力者が動かざるをえなかったのか。ビザの必要書類を安価で翻訳したときには大量の依頼があったなどの経験から、それはこの業務が特別な場合にのみ必要なことだと誤解されていることと、それゆえにかなり高価な価格設定をしていることが原因だと思うに至ったのです。

わたしたちの目指すもの

社会における多言語環境はこれからは普通の日常生活に不可欠であり、しかもそれ故に その言葉が背負っている文化的背景が理解されていないと多言語にする意味がないということを踏まえて、「無償提供」とのバランスを考えて、値崩れではなく、従来の高価格の7割程度の価格設定に下げることで、この事業をもっと広く展開させたいと思っています。私たちは 今までの無償での活動経験を通じて、翻訳・通訳業務が、言語使用者間に共通の文化背景 を前提としてはいけないということを理解している技能者たちがFACILを支えていることを、依頼者・提供者双方にアピールし、しかも手頃な価格で情報を伝えられること、つまり気軽に地元の商店も多言語で宣伝することができるとか、異文化理解教育のための講師を教育現場に招くことができるようなコミュニティづくりを目指していきたい。

それこそがコミュニティビジネスの本来の形であり、だからこそ定着した事業として利益 を安定させ、多くの外国人を含む登録者に雇用機会を創出し、その財政基盤の上で、外国人 コミュニティとの活動の安定をはかるNPO事業を確立させたい、と、考えています。